28年10月14日 日本病院・地域精神医学学会練馬大会 シンポジューム発表原稿

本年1月より後、初めての更新になりました。
福祉事業の「コットン」の方は、大きな変化はありません。
ただ、本年度で20周年となるため、今後様々な面で新しく変えていこうかと考えている事柄が幾つかあります。
1つ、5月からですが、「綿の会」というコットンの事業プロジェクトチームを作っていて、現在月に1回会合を持っていますことをお知らせします。
メンバーは、コットンと風の職員4名とコットン所長土屋と風所長土屋です。
ここでは、今後の事業の展開と業務の改善について主に話し合っています。現在は、2つの課題・目標に取り組んでいるところです。
その事も含め、多くの変革とまた事業の展開を私自身考えているところです。

さて、本日は、先の10月14日の学会で開かれたシンポジュームで、私が発表した「訪問看護ステーションから見た地域連携の現状と改善策」
のまとめ原稿を「おしらせ」に乗せることとしました。お読みいただければと思います。

「訪問看護ステーションから見た地域連携の現状と改善策」
           ~ 先生、地域を少し助けて下さい ~

                       平成28年10月14日
                       NPO法人コットンハウス、フレンズ
                       訪問看護ステーション風 
                       土屋秀則

はじめに
  訪問看護ステーション風は府中市にあります。開設4年半になります。規模は小規模で、私を含めて全て常勤職員ですが、女性5名・男性4名の計9名 で仕事をしています。
  法人は、他に作業所・グループホーム・相談支援事業所を運営しています。開設20年となります。
 訪問看護を始めてより、様々な問題点を感じながら地域で仕事をしていますが、今回は「地域連携」に関する問題点に焦点を当ててお話したいと思いま す。

1、地域の精神障害者支援で大切なもの
  精神保健福祉医療について考えるとき、私は、どうしても「地域」と「病院」という2つの支援について考えてしまいます。2つの支援は、勿論互いに 繋がっていますが、二律背反という程ではないにしろ、何処かで分断されていることも感じます。
  そこでまずは、病院と地域支援の特徴について考えてみました。それを踏まえ、分断の感覚が何かを知り、同時に地域支援で大切なものは何かも考え てみました。

〈病院の特徴、地域支援の特徴〉
ア、病院の特徴
  病院は、症状に関わる。
  病院は、個人を全身抱えるが、人生にはそんなに関わらない。
イ、地域支援の特徴
  地域支援は、人生に関わる。
  地域支援では、個人の全部を抱えることはないが、一人ひとりの様々なニーズの全体に関わり、結果的に人生に関わることになる。    
    ――これはもしかしたら古いイメージなのかもしれません。時代は変わっている?
    ――それでは、何故病院と地域は分断されていると感じるのでしょう。

〈地域支援で大切なもの〉
  私は、常々、訪問看護には3つの仕事があると思っています。1つは、日々の訪問です。2つ目は、緊急時の対応です。3つ目は、様々な地域の事業所 と連携する仕事です。
  地域生活を送っている人は、一人ひとり異なる様々なニーズを、もう一杯持っています。地域支援においては、一人の利用者さんの様々なニーズに対 して、一つの事業所が包括的に関わる事は現実的に無理があります。支援は、多くの場合幾つもの事業所がチームとして連携・協働して行うことになり ます。
  そこで、地域で大切なものは、事業者同士の「連携する力」ということになります。
  病院と地域支援との間にある距離は、この「連携」に関することだったと思います。
  
2、訪問看護から見た地域連携の現状
  訪問看護の3つ目の仕事、「連携」は放っておいても出来るものではありません。仕事として意識的に行わないと成り立たないところがあります。
 地域において、事業者間で連携が上手く行かないことは沢山あります。4年半の間、上手く行かなかったことを挙げればきりがありません。しかし、大 方の事例は、将来は上手く行くのではないかと楽観が出来るものです。時間を掛けて調整していけば、いい連携が出来るようになるはずだと思っていま す。
  しかし一つだけ、将来的にも、連携していくことに自信が持てないものがあります。それは、医師との連携です。
  医師との連携は希薄です。距離があります。この距離を埋めることは、たやすいことではないでしょう。

  医師と上手く連携できない例として、「情報共有」を観点にして数字を出してみました。
  ア、訪問開始時の医師からの情報提供
    平成28年9月31日現在で、私達がこれまで指示書を貰った件数は260件です。
    その中で、訪問看護開始時にケア会議が開かれたり、なんらかの書面で生活歴や治療歴等の情報提供が病院からあった例は、丁度130件(50%)   です。
    この130件の中から、ケア会議が開かれたことで文書の提供がなかった件数41件と、医師からではなく看護師・PSWからの情報提供文書しか    なかった件数32件(重複件数がある)を差し引くと、医師から直接情報提供があった件数は71件(27%)でした(この27%には同じ医師が含ま    れる)。
  イ、直接的な医師とのやり取り
    さて、ケア会議で会ったり、電話やメールでやりとりをしたことのある医師は、指示書を貰った医師233人のうち101人(40%)でした。
  ウ、地域で行われるケア会議への医師の参加
    私達の訪問看護ステーションは4年半前の設立ですが、病院で行われるケア会議は別として、地域で行うケア会議に医師が参加することはあり    ません。しかし、たった1度だけ医師が出席してくれた例がありました。
  エ、クリニックとの関係
    クリニックから訪問看護の依頼を受けたのは、260件中7件でした。
    病院からクリニックに通院先を変えることもあるため、現在クリニックに通院している利用者は34件です。
    そのクリニックでケア会議が開かれた例は2例のみです。 
    何年か前の事、クリニックの医師に、保健所で開かれるケア会議に出てくれないか頼んだことがあります。その医師は言いました。「ボラン     ティアで出るのは良くない。それが当たり前になる。まずは制度から整備すべき」と。もっともだと思いました。   

  これらアからエまでの数字を多いとみるか少ないとみるか判断は異なるでしょうが、私は少ないと感じています。そして、訪問看護は余り医師と連携 できていない、余り医師の力を借りられていないという実感があります。

3、精神科医師には、病院から出られない事情があるのだと思います  
  一体どうして、私達地域支援者は医師の力を借りられないのでしょう。
  ここでは私は、現在の病院・クリニックと地域支援事業所の関係性がどういったものになっているか、主観ですが、見てみました。病院・クリニック と地域支援との間にある関係性は、大雑把にいえば2つの形があると感じています。
 ア、「お城 ― 城下町」タイプ
   お城のような病院企業があり、地域は下請け企業のような形で支援をしている。
 イ、「孤高のクリニック ― ネットワークの地域支援事業所」タイプ
   地域には、独立独歩・孤高のクリニックの医師がいる一方で、連携しなければ支援が成り立たない地域事業者ネットワークがあります。
 ※ACT
    10年前にアクトを率いる医師の講演を聞きました。医師は言っていました。「連携はしたくない。行政ともしたくない」と。アクトは自己完結型   包括支援であるため当たり前の話だと思います。

  私の主観ですから、上記のイメージは正確さを反映してはいないとは思いますが、それでも、一事業者としてそうイメージできるのです。病院であれ クリニックであれ、地域事業者との連携は希薄で、医師は遠いところの存在です。
  こうなった理由ですが、(他にも理由はあると思いますが)私は、1つには経営上の要因、つまりそれぞれの事業がどう発展しているかが関係してい ると思います。
〈病院の発展、地域の発展〉
  私は、地域支援の発展より、昨今の病院の発展に目を奪われます。当然のこと、病院は経営的に上手く行っているから発展しているのでしょう。
 ア、病院の発展
   通所支援のデイケア・外来OTを運営し、訪問看護やPSWのアウトリーチ、そればかりか、認知症病棟開設、そして今や高齢者用住居、グループ  ホームまで用意しています。
   現在病院は、患者さんの人生まで引き受けるような地域包括支援をしています。一面、病院は大規模ACTの様相も呈してきていると思います。
 イ、地域支援の発展
   福祉分野では就労支援施設の進化が目覚ましいように感じられます。相談支援も実績を上げていると思います。しかし経営的には従来から厳しいも  のがあります。
   医療分野では、クリニックと訪問看護の数の増加が見られます。ただ、数は増えていても質という事ではまだまだの面があると思います。
   訪問看護が、病院の下請けのような事業になっているのではと感じることもあります。

  こう見てくると、医師が地域医療に目が向かない理由が分ってきます。
 医師の皆がみなそうとは言いません。他にも大きな理由があると思います。しかし、これだけ病院の治療と機能が発展すれば、敢えて地域に目を向けな くとも、医師は充実した病院治療生活を送れると思います。
  クリニックを開設する医師もいますが、ただ、病院の診察室がマンションに移っただけで、また孤高すぎることもあり、地域支援・地域医療に出て来 ているとは言えません。
  
4、地域を変えるのは誰だ
  脱施設化は、その理念が謳われてから10年以上が経過し、いよいよ絵に描いた餅になろうとしています。私は、実は、少しでもこの理念に応えようと 仕事をしています。しかし、焼け石の水にもならないようです。
  私は、もしも、医師達が地域支援の可能性を見て、地域にもっと目を向けてくれるなら、この国の精神障害者支援は恐らくもっと早く変化していくだ ろうと考えています。しかしそうはなりません。
  訪問診療を行っている精神科医は極々僅かです。診療報酬が採算に合わないのでしょうか。一般科の訪問診療は発展していて、訪問診療医師は数えき れないほどいると聞いています。しかし、精神科訪問診療医は、私の地域では2人しか知りません。私達が最も連携できる医師は、訪問診療を行ってい る医師とですが。
  私は、今でも職員に言っています。「自分達は地域のチームの一員なんだ。ただ仲よくするだけではだめ。他の事業所のために仕事をしろ」と。私  は“風”を育てていますが、それは、地域のチームのいい一員となるように育てています。for the teamの考えで仕事をしています。10年前に聞いた  ACTの話には10年以上優に遅れています。
  最後に大ヒンシュクを買う提案をさせてください。
  ア、病院は入院機能だけにし、外来通院は地域クリニックだけにさせてください
  イ、訪問看護を精神科病棟の中に行かせてください
  ウ、ケア会議に出席する医師に診療報酬を出してください
  病床が減らせないのなら、医薬分業ではありませんが、入院外来分業がいいのではないかと思います。病院は入院治療に特化し、外来は地域クリニッ クが担う。
  また、訪問看護が、入院した利用者さんに対して、病棟へ訪問サービスするというのはどうでしょうか。これまで面会という形で、何人かの方を病院 に訪ねたことがありますが、相当な効果があるように感じられるのですが。患者さんは、地域との繋がりを保つことが出来ます。
  そして最も簡単にできる事と思いますが、国が、医師の地域ケア会議出席に診療報酬を算定することを行なえば、少しは地域支援の充実の後押しとな るでしょう。「それでも医者は出ないよ」とは言わないでください。報酬があれば地域ケア会議に出ると言っている医師も現にいるのですから。焼け石 に水でも水は掛けてほしいと思います。