2018年新年に思うこと ―包括ケアシステムと個人主義について―

        コットンハウス、フレンズ理事長 訪問看護ステーション風 所長 土屋秀則

変化というものは突然起こるようでも、実は見えないところで少しずつ起こっているものだと思います。
 社会も人間も知らないうちに静かに変化してきていたようでしたが、昨年は、誰もがド~ンと大きな変化を感じることになった一年だったのではないでしょうか。
 社会や人間の変化に伴って、よく見れば、私達が携わっている地域での精神障害者支援の仕事も様々な変化が進んでいると思います。
 私が昨年最も考えさせられた変化は、人間個人のそれぞれの精神の中で拡大的に進む「個人主義」という事象についてでした。この事象は、私共の日々の仕事に大きく関係してくるものですから、私の悩みの種になってしまっています。
「己の事ばかり考える奴は、己をも滅ぼす奴だ」とは、折よく年末に放映された黒澤明「七人の侍」の中のセリフです。私は、実は、昨年ほど様々な場面でこの言葉が脳裏をよぎった年はありませんでした。映画では、これに先立ち、「他人を守ってこそ自分を守れる」というセリフが放たれます。
 映画は半世紀以上も前に作られましたが、その時代も当然個人主義はあったわけです。しかし、声高に利他主義がプレゼンされ、農民も侍も一緒になって命を懸けて戦うなんて、黒澤の時代には現代の考え方とは違う考え方があったことを思い出させてくれます。
 18世紀後半に起こった産業革命の負の側面として、社会や労働の分断、利己主義の隆盛、格差の拡大等があげられると思いますが、これらは、その後社会的修正が試みられたりもしてきました。しかし、現代社会においては、修正不可能なくらいこの負の側面は拡大し徹底化がなされてきていると感じます。
 現代に生きる人間には、個人主義でしか生きられない状況があるのだと思います。現代人にとって幸せは個人の中にあるプライベートなもの。究極、「他者は存在しない」という命題さえ成り立つくらいの状況です。
 私達が携わる地域での精神障害者支援の仕事は、或る面、障害者の生活に作り出された様々な負の側面について、個々の事例においてまた社会的な問題として修正を行う作業という意味もあると思います。私は、これを行うためには、私達自身が、分断化された専門家職業人ではなくトータルな人間として生きていること、また、個人主義ではなく博愛主義も持ち合わせていなければならないこと、そして、他人の幸せを願い他人の不幸を忌む共感感性を持っていなければならないとも思っています。もし、支援者がこの反対の人間性を持っているとしたらどうでしょう。
 ところが、今や、社会全体を蔽いつつある個人主義は、私達事業者や職員一人ひとりの心にも浸潤している感があります。

 さて、昨今、「精神障害者に対応した地域包括ケアシステム」の構築が提唱されるようになってきています。
 現実的には、この包括ケアは、多くの事業者が関わる連携型のシステムになっていくと思います。この場合当然職種を超えた様々な支援者と連携がなされるわけですが、「7人の侍」のように寝起きを共にしているわけではないのですから、連携することは中々困難を伴うかもしれません。それぞれの事業所で利害関係が生じる場合もありますが、それをどのように調整できるか。連携チームのリーダーの役割は大切ですが、これは経験や立場だけではなくやはり人間性にも関わってくるものだと思います。
 それぞれの事業者の経営においては、個人主義・利己主義を自らのパーソナリティとしなければ生き残れない現実もあるかと思います。当たり前に競争と淘汰が行われています。また事業者の多くは、他の職業団体と同様に人材不足に陥っています。
 このような私達を取り巻く状況をどのように捉えるかが、今私達が直面している大きな問題なのです。そして、私はここに、現在この状況を肯定的に捉えることが出来ていることをお話しておきたいと思います。
 もし地域での精神障害者支援の仕事において、多種多様の小さな事業所が、利害を超えて、また利害を同一のものとして、連携し、一人の利用者に関わることが出来たなら、それは、新しい素晴らしい仕事の在り方になるのではないかと思うからです。
 連携は、事業者における個人主義・利己主義を超えるものです。こういった事業の在り方は、他の業種にはないのではないでしょうか。この地域連携が成功して行けば、現代に生きる人間の個人主義も、もしかしたら変わっていくこともあるのではないかと思います。

 新年、述べましたように、私には2つの課題が課せられていることを自覚しています。1つは、事業所をあげて、しっかり他の事業所と連携し、「精神障害者に対応できる包括的ケア」をよりよいものにしていくよう寄与すること。もう1つは、社会の、また個々の人間の行き過ぎた個人主義と利己主義に対して、それを乗り越えられるような前向きな適応方法を探し出していくことです。
 そのためには、私達が内なる分断を乗り越え、トータルな人間・職業人として生きる、そこから始めたいと考えております。

 今年、皆様方の生活と仕事に笑顔が満ち溢れますように。