新年のご挨拶 土屋秀則

 明けまして、おめでとうございます。
新年を、希望に胸ふくらませ歩みだすことが出来ましたことを、皆様方に心から感謝し、お礼を申し上げます。
 本年は、私たちが活動を始めて20年目という節目の年となります。この間の業績は微々たるもの、歩みは遅々たるものでした。しかし、利用者さん一人ひとりへは、ずっと変わらず、温かく心通いあえる支援をさせて頂けるよう心掛けてきました。20年という峠を超えましても、これまでと変わらず、私たちは、心を尽くした温かい支援をさせて頂きたいと願っております。
 さて、昨年私が感じましたことの一つに、自然環境や社会の様々な分野で、その発展・進化や変化のスピードが一気に加速されたのではないかいうことでした。地球温暖化の問題はもとより、グローバル経済、情報化社会における発展や変化はどうもバランスが取れたものにはなっていないように感じられます。戦争と平和、経済格差等の問題、日本における少子高齢化の問題等は、バランスを欠いた速すぎる発展、変化にも大きな原因があるようです。
 私たちは精神保健福祉医療に携わっておりますが、この分野での発展進化はどうでしょうか。日本においては、残念なことにこの分野の発展進化はあまりにも遅いものになっています。
 私が初めてこの精神保健福祉医療分野に入ったのは、もう30年近くも前のことになります。最初は精神科病院の病棟でした。そこは、残念なことに、それまで私が生きてきて体験した世界の中でもっとも悲しい場所でした。やさしい場所であるはずと思っていたところが、そうではなかったのです。昨年は、高齢者施設で行われていた虐待の様子がTVで放映されました。私は、30年前ですが、精神科病棟でしばしばそういう光景を目撃しなければなりませんでした。
 現在、多くの精神科病院の建物は、輝くばかりの高層ビルになっています。建物だけではなく、病棟内もやさしさが満ちている場所に変わったと思います。この変化は良いことだと思います。
 しかし、西欧諸外国では、以前から精神科病院が減少していく傾向にあります。様々な問題はあるとは思いますが、病院がなくなった国さえあります。病院がやさしくなったのではなく、社会そのものがやさしくなっているのです。つまり、入院患者さんたちは地域に受け入れられ、一定の役割を果たしながらそれぞれの場で生活を続けられるようになっているのです。
 地域にあるもの、それは、自由であり平等であるやさしい生活です。
 私たちは、20年間、一人ひとりの利用者さんに対してやさしい支援を行っていくよう心掛けて来ました。と同時にずっと、入院している多くの精神障がいを持った皆さんが地域で暮らせる社会になるよう念願しつつ活動してまいりました。しかし私たちの力は小さく、どれほどの貢献が今入院している皆さんに対して出来たかは疑問です。
 日本では、病院は発展進化しました。しかし、地域の精神保健福祉医療は、精神科クリニックが増えたということはありますが、ほとんど20年前と変わりません。経済的側面からいえば、精神保健福祉医療分野で掛かる費用は、現在も90%以上が病院に使用されています。地域保健福祉医療が使用している金額が少ない状態はそのままです。地域の力が弱いから地域保健福祉医療が発展しないのかもしれません。それとも経済的な制度の問題があるため、つまり地域に使用できるお金が少ないことから、地域の力が弱いままなのでしょうか。
 私たちは、今後も地域の精神保健福祉医療の一端を担うものとして、一歩一歩力をつけ、この分野がバランスのとれた発展進化をしていくことに貢献していこうという考えでいます。一つの目標ですが、今年はこれまで以上に、入院している皆さんが一日も早く地域に出て来られて、管理されるのではなく自由で、自信をもって対等に、自分の気持ちを大切にして穏やかに毎日が送れるようにと考えて仕事を進めていこうと考えています。そのため利用者の皆さんの力をもっと高め、共に力を合わせて仕事をしていくことも進めていきたいと考えています。
 無論現在ある制度を少しでも変えなければならない、制度の再構築を果さなければならないという使命もあるのですが、私たちはこれまでどおり出来るところから始めさせて頂ければと考えています。自分たちの今ある力を出し切って、利用者さんと共に精神保健福祉医療を少しでも良くしていければと願願っております。
 戦後70年が経ち、戦争の匂いが感じられるような昨今です。速すぎる発展や変化は矛盾を生み、それを修正できなければ社会はやさしさを失います。社会は格差と差別を固定化させ、国は戦争をしなければならなくなることもあると思います。もし、社会全体で人が人にやさしくなれれば、格差を是正することが出来れば、そして精神障がいを持っている全ての人たちが安心して地域で暮らせるやさしい社会になれれば、日本は戦争をしなくてもいい国になっていくのではないでしょうか。
 先行き不安な社会ではありますが、私たちは希望をもって今後も精神保健福祉医療に貢献させて頂く所存です。これまで以上のお力添えを切にお願い申し上げます。
 
 平成28年元旦    NPO法人コットンハウス、フレンズ理事長 土屋秀則