2019年 新年の抱負               理事長土屋秀則

私たちNPO法人コットンハウス、フレンズは、これまで22年間、地域で暮らす精神障害者への支援を続けて参りました。この間、事業所は様々な課題に取り組みながら、僅かとはいえ成長をさせていただくことが出来きました。皆様お一人お一人のお力添えあってのことと感謝しております。ありがとうございました。

さて、昨年は、これまで気に掛けていた問題がはっきりした姿で一気に私たちの目の前に現れるようになった年でした。それは、利用者さんの高齢化に伴って生じてくる問題です。昨年、幾つかの支援を通して、私たちは今後どのようにこの問題に対応していったらよいのか深く考えさせられることとなりました。そして、この対応や支援の方法を形作っていくことこそが私たちの今後の大きな成長課題であると捉えるようになりました。
これまで長い期間にわたって支援をさせていただいたことから現れてきた課題は、私たちにとってはすでに逼迫したものになって現れました。
多くの利用者さんが高齢になっていきますが、いつまでもその人らしく健康に幸せに生活していっていただくためにはどのような支援を差し上げていったらいいか、私たちは今それが問われています。
ご存知の通り、精神疾患を持ちながら身体的に健康であり続けることは、多くの場合難しい面がたくさんあると言わざるを得ません。生活習慣病にしても、最近よく言われるようになったフレイルにしても、また高齢になるに伴い変化していく生活能力についても、精神障害者にとっては、予防の段階から問題発生後の適正な対応まで大きな困難が伴うように見えます。
いわば私たちの支援には、一人の利用者さんに対して精神的な問題以外にも、どのようにして医療的、身体的な問題そして低下していく生活能力に対して包括的に行うことが出来るかという新たな課題を与えられているわけです。

ここで、私たち支援者の一人一人に求められるものは、精神科領域の専門性だけではなく、生活に関するあらゆることにおいて複合的な専門性を持たなければならないということだと思います。福祉部門の支援者は医療的知識も、医療・訪問看護の支援者は福祉的知識も持っていなければよい支援はできません。そして、事業所全体としても矢張り複合的な専門性を持った事業所であるべきだと思っています。
福祉的問題、医療的問題のどちらかであるかにかかわらず、また早い訪れ遅い訪れにかかわらず、個々の高齢化に伴って生じてくる多様で専門的知識を必要とするニーズに対して私たちは、支援者としても事業所としても十分に対応できるように進化していかなければならないと思っています。

とはいえ、一人の利用者さんに対して一人の支援者や一つの事業所がすべての面で対応できるわけではありません。様々な専門的支援を行う事業者間でよい連携があれば、個々の利用者さんへの包括支援は地域包括支援になるのだと思います。ただ、どのような支援であっても利用者を包括的にアセスメントできることは必須だと思います。
私は、私たち法人の職員一人一人をできれば複合的な専門性を持った職員とし、そのことにより、様々な事業所とより円滑に効果ある連携支援ができることを目指していきたいと思っています。
国の施策として、地域の精神障害者にも包括的支援を行うことが求められています。
ところが、昨年一年、この包括的という部分でうまくいかなかった支援を私たちはいくつか体験致しました。
これには、もちろん制度の問題が一つあると思います。制度にも溝があり、事業所と事業所の間にも溝があります。
しかし、これに覆いかぶさるようにもう一つの問題があると思います。支援者一人一人が、包括的支援において弱さがあるということです。精神科領域の支援者が、身体的障害や知的の問題に対し、専門性を超えて他の専門家につなぐことには高い難度があるようです。また、福祉は医療の領域のアセスメントに難があります。その逆もあります。幾つかの障害が複合していたら、支援はお手上げの状態になりかねません。
私は、製造業ならまだしも、人を支援する仕事において分業はともすると大きなリスクをはらんでいると思っています。輪島塗のような伝統工芸は、完全な専門性に基づいた分業によって製品の質が高められているそうです。しかし、福祉や医療の分野では、それだけではうまくは行かないことがあるのではないかと思います。
そこで大切なことは、専門家同士がつながろうとする意志です。人と人を、人と事業を、事業と事業をつなぐ役割を支援者の一人一人が担っています。私たちは、今後さらにこの部分でしっかり技術を学んでいこうと考えています。

高齢化の波は、地域精神障害者支援の分野でもすでに始まっていました。そして、昨年世界中で荒れまわった分断の波は、すでに地域福祉の分野でも始まっていたと思います。世界の潮流は、大抵は一人一人の人間が生きている場で起きている波と同じもののようです。もしかしたら一人一人の人間は、とうの昔に自分ファーストになりきっていたのかもしれません。

NPO法人コットンハウス、フレンズは、一人一人の職員が自らの専門性を超えて人間を学び支援の力を高めていきたいと思っています。そして、地域で、専門性を超えて連携していくことをしっかり行っていけるようになろうと考えています。
私たちは、このことを通して今世界や地域の現場で起きている波を乗り越えていこうと考えています。私たちはこの仕事において、障害を持っていてもいなくとも、人が幸せになれるようなあり方に向かって進んでいけるよう、幾らかでも貢献したいと願っています。
本年もよろしくお願いしたいと存じます。